投球肩障害は、野球・テニス・バレーボール・水泳などの競技において、肩関節や周辺組織に起こる障害の総称です。当院での治療の目安は30分コースです。
肩峰下インピンジメント
肩峰下インピンジメント症候群とは、肩峰の下で軟部組織が衝突してしまうことを指します。
Contents
- 1 肩峰下インピンジメントの症状
- 2 肩峰下インピンジメントの原因
- 3 肩峰下インピンジメントの検査
- 4 他の疾患と間違えないように注意!
- 5 肩峰下インピンジメントのアプローチ法
- 6 インターナルインピンジメントの症状
- 7 インターナルインピンジメントの原因
- 8 インターナルインピンジメントの検査
- 9 インターナルインピンジメントへのアプローチ法
- 10 上腕二頭筋長頭腱の症状
- 11 上腕二頭筋長頭腱炎の原因
- 12 上腕二頭筋長頭腱炎の検査法
- 13 上腕二頭筋長頭腱炎のアプローチ法
- 14 リトルリーガーズショルダーの症状
- 15 リトルリーガーズショルダーの原因
- 16 リトルリーガーズショルダーの検査
- 17 リトルリーガーズショルダーのアプローチ法
- 18 SLAP(スラップ)損傷とは
- 19 SLAP損傷の症状
- 20 SLAP損傷の原因
- 21 SLAP損傷の検査
- 22 SLAP損傷へのアプローチ法
肩峰下インピンジメントの症状
肩峰下インピンジメントの症状には、肩の痛みや違和感、特に腕を挙げる際の痛みがあります。
Neerは以下のように肩峰下インピンジメント症候群を3つのstageに分けています。
▶Stage1 浮腫及び出血期:スポーツ選手などに見られ、上肢の挙上を繰り返すことによって生じる。 肩関節亜脱臼や肩鎖関節の障害によって生じることが多い。 経過は良好で可逆的である。
▶Stage2 繊維化、腱炎症の時期 若年〜40代のオーバーヘッドスポーツ愛好家や労働者に多い。 肩関節周囲炎や、凍結肩、石灰沈着腱炎などによって生じる。 スポーツや仕事を繰り返すと症状が増悪する。
▶Stage3 骨棘形成や腱板の部分〜完全断裂の時期 一般的に40歳以降に見られることが多い。 頸椎症性神経根や腫瘍があげられる 経過が増悪しやすい。
Stage2になると肩峰下滑液包や烏口肩峰靭帯の切除術、stage3では肩板機能を保障するための肩板修復術を行うこともあります。また鏡視下肩峰下除圧術を行うことで、インピンジメント障害の再発率が4.7%であったという報告もあります。
肩峰下インピンジメントの原因
1.インナーマッスルの低下・アンバランス
2.肩甲骨の可動性低下
痛みの原因としては、一般的には棘上筋腱が肩峰下でぶつかって生じるものや、肩峰下滑液包の挟み込みによるものが考えられます。
肩峰下インピンジメントの原因には、姿勢の悪化、肩関節周囲の筋力低下、過剰な肩関節の使用、加齢などが挙げられます。肩峰下インピンジメントを予防するためには、正しい姿勢を保ち、肩周りの筋肉を強化し、適切な休息や回復方法を心がけることが大切です。
肩峰下インピンジメントの検査
ペインフルアークテスト
- 座位or立位にて腕を横にあげていきます。※真横ではなく30°前に上げましょう。(肩甲骨面上)
- 約60°~120°の間で痛みが出る場合陽性です。
ホーキンステスト
- 座位or立位にて肩関節屈曲90°・肘関節屈曲90°の位置を術者が保持します。
- 術者が肩関節内旋を加えます。
- 内旋により疼痛が生じる場合は陽性です。
棘下筋テスト
- 座位or立位にて腕を下ろし、ひじを90°曲げます。
- 肩関節外旋(外にひねる)方向に自分で動かしてもらいます。
- 術者は内旋方向に徒手抵抗を加えます。
- 疼痛や脱力感が確認される場合は陽性です。
他の疾患と間違えないように注意!
腱板断裂
インピンジメント症候群の症状は腱板断裂と似ていますが、腱板断裂では筋力低下を起こすのに対して、インピンジメント症候群では筋力は通常保たれています(痛みで脱力してしまう場合はあります)。MRI検査を行うことで、両者の鑑別はほぼ確実なものとなります。インピンジメントしている事から断裂へと悪化しますので要注意です。
四十肩・五十肩
五十肩(肩関節周囲炎)では、肩の動きそのものが制限されるため、自分の力で動きづらいだけではなく、人に手を動かしてもらっても肩は十分に動きません。インピンジメント症候群では、通常人に手を持ってもらえば痛みはある程度でるものの、肩の動きは保たれています。
石灰沈着性腱板炎
石灰沈着性腱板炎(慢性期の症状)は、インピンジメントが原因となることもあるため、両者の症状は似ています。レントゲンを撮影し石灰の存在が明らかとなれば診断がつきますが、実際症状を出しているのはインピンジメント現象である可能性があります。
肩峰下インピンジメントのアプローチ法
1.インナーマッスルトレーニング
インピンジメントは上腕骨頭の求心性が低下しています。上腕骨頭の肩甲骨への求心力が低下しているインナーマッスルを自宅でもトレーニングしてもらいます。また、インナーマッスルのみでなく、後述する上腕二頭筋の筋肉も上腕骨を正しい位置にするのに非常に大切です。弱化している場合はトレーニングしてもらいます。
2.肩甲骨の可動性
肩甲骨が下制、後傾しなければ、肩峰下で衝突してしまいます。簡単に言うと猫背はダメ!という事になります。しっかりと胸を張り、肩甲骨を下げれるようになる体の調整とエクササイズが必要です。
3.関節の調整
腕の骨は肩甲骨に対して、かなり複雑な動きをします。例えば前から上にあげてくだけでも後ろに滑ったり、下に滑ったり、回転したりします。その動きを取り戻すための関節調整をします。頚椎に問題がある場合もあれば、胸椎や肘に問題がある場合もあります。関節包後部、下部が上腕骨の後下方への制限因子となっている場合は、患者様の上腕骨を介し、関節包にストレッチをかけていきます。
インターナルインピンジメント
インターナルインピンジメントの症状
肩の中や後方部の痛み
・野球・テニス・バレーボール・水泳
これらの上腕を回転させる競技など、肩関節の多角度な可動性を要求されるスポーツで発生することが多いです。
インターナルインピンジメントの原因
レイトコッキング期での肩後方部での挟み込み(関節窩と上腕骨頭の間に後上方関節唇がインピンジメント)※イラスト最上部コッキング後期参照
肩関節の外転・外旋の肢位をとった際に大結節と関節窩が衝突することで、それによってインピンジされてしまう軟部組織(ローテーターカフや関節唇)の損傷です。とくに投球動作の最大外旋時に生じるインターナルインピンジメントが、投球障害肩で多いSLAP損傷の誘因になります。
- 肩の前方不安定性
- 肩後方部の柔軟性低下(投球後は肩前方部の不安定性と肩後方部の柔軟性低下が見られます。)
- 肩甲骨の可動性低下
- 胸椎を反らせれない
上記が当院に来られる患者様で顕著な原因です。
その他にも、下肢の柔軟性低下、投球フォーム、投球過多、など原因はさまざまです。
インターナルインピンジメントの検査
HERT(Hyper External Rotation Test)
HERTは臥位で肩関節の過水平外旋を行うテストです。
インターナルインピンジメントへのアプローチ法
1.肩の前方不安定性に対するアプローチとして肩甲下筋のトレーニング指導(肩の前方不安定性に対して有効)
2.肩後方部の柔軟性獲得(肩後方部のセルフストレッチも非常に大切です。)
3.肩甲骨の可動性低下と4.胸椎伸展可動域の低下に対し、頚椎から背骨、骨盤の調整(肩甲骨の可動性は胸椎の伸展が乏しければ増大しません。)
上腕二頭筋長頭腱炎とは
上腕二頭筋長頭腱の症状
上腕二頭筋長頭腱炎の症状には、肩の痛みや腫れ、上腕部の痛みやしびれ、力の低下、肩関節の可動域の制限などがあります。
上腕二頭筋は、肩甲骨の上部と上腕骨の頭部に付着しています。
上腕二頭筋長頭腱炎の原因
投球障害における肩の上腕二頭筋長頭腱炎は、上腕二頭筋の長頭腱に炎症が生じる状態を指します。長時間かかる繰り返しの投球によって、上腕二頭筋の長頭腱が繰り返しストレスを受け発症します。
長頭腱は、肩甲骨の関節上結節、後上方関節唇に付着しており、肩関節の動きや安定性に重要な役割を持っています。先述のインピンジメント症候群をケアする際にも、骨頭のはまる位置が大切になります。(骨頭の求心性)
この求心性を求める際、二頭筋の骨頭引き下げ力が必要になってきます。
投球などの動作によって、上腕二頭筋の長頭腱に負荷がかかることで、繰り返しストレスが加わり、炎症が起こることがあります。
上腕二頭筋長頭腱炎の検査法
スピードテスト
回外テスト
上腕二頭筋長頭腱炎のアプローチ法
1.上腕骨が正しく挙上できるように関節を調整します。また、同時に筋バランスが崩れている場合、筋肉のリラクゼーションも行います。
2.エクササイズ
弱化が起きている筋のトレーニングを自宅でも行ってもらいます。対象となる筋は様々です。例えば、肩甲下筋です。上腕二頭筋の腱は結節間溝といい腕の骨にある溝に収まっています。あまり知られていませんが、この骨制の安定化機構である溝だけでなく、肩甲下筋の腱もこの溝を補助しています。肩甲下筋がしっかり働いていなければ、上腕二頭筋腱は安定しないのです。
リトルリーガーズショルダー
リトルリーグショルダーは、小中学生の野球投手に見られる上腕骨近位骨端線離開のことを指します。
リトルリーガーズショルダーの症状
症状には、肩の痛み、腕のしびれや痺れ、力の低下、肩の可動域の制限などがあります。
リトルリーガーズショルダーの原因
上腕骨近位骨端線は、成長期の骨の一部であり、成長期における骨の成長と形成に重要な役割を持っています。野球などの投球動作では、上腕骨近位骨端線に大きな負荷がかかるため発症します。
ボールをリリースして、フォロースルーに近くなってくると、腕が前に振り出されてしまうので、
それを止めようと引っ張る力がかかります。
そして、肘から先もボールを投げるために、ひねりの動作がさらに続いて起こります。
一連の動作の中で、骨端線の部分を境にして、引っ張る力とねじる力が加わっていることが、離開の原因となります。
成人になっていくにつれて骨端線が無くなるので、そうなった時には、骨の部分ではなくて、筋肉や靭帯に負担がかかることになります。
リトルリーガーズショルダーの検査
レントゲン画像により検査します。リトルリーガーズショルダーを除外するためにも、成長期におけるスポーツ時の少年少女の肩の痛みは病院で画像検査をすることをおすすめします。
リトルリーガーズ・ショルダーは3つに分類されます。
タイプ | 状態 |
---|---|
Type1 | 骨端線外側の部分的な拡大を認める |
Type2 | 骨端線全体の拡大を認める |
Type3 | 骨頭のすべりを認める |
骨端線の部分の広がりの度合いによって3つに分けられています。
主にⅠ型とII型がほとんどです。
リトルリーガーズショルダーのアプローチ法
治療には、第一に安静です。目安は1~2カ月です。再開は必ず医師の診断を受けるようにしてください。
痛みが無くなり、骨端線の離開が治ったら、投球の再開前に体のコンディショニングを行います。フォームに問題があり、再発してしまう選手もいます。体が開くのが早いなど、肩に負荷がかかりやすいフォーム修正も大切です。
また、予防のためには、投球量を適切に管理し、投球前後のストレッチが重要です。
SLAP損傷
SLAP(スラップ)損傷とは
SLAP損傷とは、肩関節の二頭筋長頭腱(ちょうとうけん)が付着する部位に損傷が生じた状態を指します。SLAPは、Superior Labrum Anterior to Posteriorの略で、日本語では「上方関節唇の前部から後部の損傷」と訳されます。
肩関節の上側には、二頭筋長頭腱が付着しています。この付着部には、肩関節を安定させるために、環状の軟骨組織である「関節唇(かんせつしん)」が存在します。
SLAP損傷は、この唇部分が損傷を受けることを指し、肩関節の安定性に問題が生じることがあります。
SLAP損傷の症状
投球動作のコッキング期で肩関節後方の疼痛や引っかかり。その他不安定感、力の低下、肩関節の可動域の制限などがあります。
SLAP損傷の原因
SLAP損傷は、スポーツなどの肩関節に負担がかかる動作を繰り返したり、急激な力が加わったりすることで発生することが多く、野球投手やテニスプレーヤーなどのスポーツ選手に多く見られます。
また、転倒や急激に引っ張られたり、肩関節の老化によっても発生することもあります。
スポーツ障害の場合、肩関節後方の硬さや肩甲骨可動域の低下、胸郭の機能低下、腱板(肩の周りについている筋肉)の弱化が原因で発症します。
肩甲胸郭の機能が低下している状態(特に肩甲骨を内側に寄せる機能が低下している状態)や肘下がり、体の開きが早い投球フォームでは、肩を必要以上に後ろ側、外側に広げるために、肩の後上方で腱板と関節唇がぶつかり、損傷します。
また、投球動作の度に二頭筋の牽引力が働き、関節唇は二頭筋と一緒に肩甲骨から剥離し、しばしば腱板断裂を合併します。
SLAP損傷の検査
MRI等の画像検査で確定します。徒手検査では
1)Anterior Slide Test(前方スライドテスト)
2)Yergason Test(ヤーガソンテスト
3)Compression Rotation Test(圧迫回旋テスト)
4)Pain Provocation Test(痛み誘発テスト)
5)Anterior Apprehension Test(前方不安定感テスト)
6)Biceps Load II Test(上腕二頭筋負荷テスト II)
SLAP損傷へのアプローチ法
治療方法は、損傷の程度や症状によって異なりますが、早期に適切な治療を行うことが、完全な回復につながることが多いです。損傷のフェーズにより異なります。
保存治療では肩の内旋と水平内転の柔軟性獲得が大切になります。
症状が重い場合には手術する必要があります。