アディポネクチンについて 門脇孝先生「東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科 助教授NetScience Interview Mail Vol.253 2003/10/30発行 」のお話を分かりやすく説明します!
脂肪が無いと糖尿病になる
1999年アメリカの2つのラボ、一つはNIHのライトマン博士のところ、もう一つはテキサス大学でコレステロールの動脈硬化作用についてノーベル賞を取ったブラウンとゴールドシュタインという両博士がいた。
二つの研究室から遺伝子操作によって、脂肪細胞が欠損した、脂肪萎縮マウス、脂肪欠損マウスが発表された。
それまで、基本的に「脂肪細胞=悪玉学説」だったのに、脂肪細胞が全くできないマウスは非常に強いインスリン抵抗性、糖尿病、高脂血症が生じた。
インスリン抵抗性とはインスリンの効きが悪いってことだよ。
インスリンの血糖を下げる働きが十分に発揮されない状態。
反対の意味で感受性という言葉を使うよ!
2000年にはNIHのライトマン博士による大きな発見がありました。
今度は脂肪萎縮マウスに、正常な脂肪を移植した。
まさかのインスリン抵抗性が改善したんです。
そこで、脂肪細胞が善玉であるという説が台頭してきて、脂肪細胞が出している善玉は何かという競争が起こった。
もともとレプチンは94年に抗肥満ホルモンとして発見されていたが、脂肪萎縮マウスにレプチンを投与すると、糖尿病がかなり良くなった。
しかし、レプチンを投与すると、インスリン抵抗性は良くなるけども、普通の量の投与ではインスリン抵抗性は部分的にしか良くならない。
レプチンを投与すると部分的にインスリン抵抗性が良くなる。
アディポネクチンを正常な量に戻してやると、これまた部分的に糖尿病が良くなる。
そして
両方正常な量を加えると、完全にインスリン抵抗性が改善。
脂肪細胞がまったくなくても、レプチンとアディポネクチンだけ戻してやると、インスリン感受性が良くなる。
アディポネクチンを投与するとインスリン感受性が回復する
脂肪の萎縮したマウスだけではない。
わざと高脂肪食を与えて太ったマウスの脂肪細胞は大きくなっている。
脂肪細胞が大きくなると、アディポネネクチンの分泌は低下する。
つまり、アディポネクチンは、脂肪の量と脂肪細胞のサイズが丁度良い時にもっともたくさん出る。
脂肪ができなくなるとアディポネクチンは欠乏し、脂肪細胞が大きくなってもアディポネクチンは分泌低下して、2つともインスリン抵抗性になる。
そういうときにアディポネクチンを補給してやると良くなることから
脂肪細胞は肥大しすぎても、またサイズが萎縮しすぎても、どちらも正常な機能を果たすことはできない。
脂肪細胞には二種類ある。
アディポネクチンやレプチン、善玉を分泌するのが主な働きの小型脂肪細胞.
それが大型脂肪細胞になるとレプチンやアディポネクチンは出にくくなって、逆にTNFαとか遊離脂肪酸とかPAIー1とか言われる悪玉を出す。
だからできるだけ健康でいるコツは、できるだけ脂肪細胞を小型にしておくことであると。
食事療法や運動療法が有効です!
なぜアディポネクチンは太ると減るの?
「なぜ肥満するとアディポネクチンが出なくなるか」
なぜアディポネクチンはインスリン感受性をよくするのか。
なぜ脂肪細胞の肥大に伴ってアディポネクチンの分泌が低下するのか、ということについては、研究成果がありません。
2型糖尿病になりやすい遺伝子
兄弟姉妹の病気の原因となっている遺伝子の場所を特定しようとする方法【罹患同胞対(シブペア)】を集めるという解析をした。(224組の調査)
糖尿病の兄弟がいたら、本人の採血だけではなくて、兄弟の採血もする。
あるマーカーについて、ABCDという4つの種類が区別されるとする。
■両親が、それぞれAとB、CとDを持っていたとすると、兄弟の兄は、AC、AD、BC、BDという4通り。
弟も4通り。
兄がACの場合 | 兄がADの場合 | 兄がBCの場合 | 兄がBDの場合 | |
弟がACの場合 | 兄AC弟AC | 兄AD弟AC | 兄BC弟AC | 兄BD弟AC |
弟がADの場合 | 兄AC弟AD | 兄AD弟AD | 兄BC弟AD | 兄BD弟AD |
弟がBCの場合 | 兄AC弟BC | 兄AD弟BC | 兄BC弟BC | 兄BD弟BC |
弟がBDの場合 | 兄AC弟BD | 兄AD弟BD | 兄BC弟BD | 兄BD弟BD |
兄がACを持っているケース
弟はAC、AD、BC、BDの可能性がある。
ACとACは二つとも一致。
ACとADは一つ一致。(AとA)
ACとBCも一つ一致。(CとC)
ACとBDは一個も一致しない。
その場合には、「2個一致が1通り」「1個一致が2通り」「0個一致が2通り」
今度は発端者がACじゃなくてADの組み合わせもあるため、全部で16通りある。
そのうち「4通りは2個とも一致しない」「4通りは2個とも一致」
「8通りは一個だけ一致」と分類する。
こうした研究で日本人の糖尿病に関係する遺伝子領域は、9カ所見つけられた。
その9カ所の領域のうち、3カ所が欧米人のマッピングの結果と一致していた。(各人種共通の糖尿病因子)
残りの6カ所は、日本人やアジア人に特有の領域じゃないかと推測。
つまりインスリン感受性に大きな影響のある遺伝子の場所が、日本人の糖尿病遺伝子が存在する領域にあった。
それから15人の調査をすると、
GGとGTとTTの3つの遺伝子型で、GG型をもっているとTT型に比べるとアディポネクチンの血中濃度が2/3になるという多型を見つけた。
GGを遺伝した人は、血中アディポネクチンが生まれつき2/3に低下していた。
インスリン抵抗性が2~3割上昇していて、糖尿病のなりやすさが2倍以上になる。
GGタイプを日本人の50%は持っているということは、我々の半分がアディポネクチンを出しにくく、糖尿病になりやすいのではないかということが言える。
アディポネクチンは太ると減るが、もともと日本人の50%は出しにくい体質を持っている。
洋食を食べるようになるとますます出にくくなっているのではないかな。
で、アディポネクチンはインスリン感受性ファクターなので、それで糖尿病が増えているんではないか。
もともと日本人はインスリンの分泌量が低いという体質があるので、アディポネクチンが減ると非常にインスリン抵抗性を起こしやすいのではないか
インスリン抵抗性の動物にアディポネクチンを注射したときに、まず分かったのが、アディポネクチンは脂肪組織、脂肪の量自体を劇的に減らす効果はない。
筋肉や肝臓の脂肪には効果があるんだ。
脂肪肝とかね!
筋肉や肝臓に脂肪が溜まっている状態は、インスリンによって糖を取り込んだりする働きがすごく失われていて、その脂肪を燃やしてやると、インスリンによって糖を取り込んだりする働きがすごく増える。
■脂肪萎縮マウスは、脂肪を脂肪細胞に貯められないので、筋肉や肝臓に脂肪を貯めちゃう。
そしてそれを燃やすのがレプチンやアディポネクチン。
脂肪を取り込めない。
筋肉や肝臓にいってしまう。
そこで燃やすホルモンであるレプチンやアディポネクチンもなくなっている。
ということで脂肪はなくても脂肪肝になり、筋肉に脂肪が溜まっている状態になってしまう。
■肥満の状態というのは脂肪はたくさんあるよね。
でもレプチンやアディポネクチンはあまり出ていないので、肥満の状態っていうのは、一つは高脂肪食の状態だから、脂肪細胞だけじゃなくて、筋肉や肝臓にもどんどん脂肪が溜まるわけです。
脂肪組織自身も遊離脂肪酸とかをたくさん出している。
脂肪そのものはたくさんあるわけだ。
ところが脂肪を燃やすレプチンやアディポネクチンは作用が減る。
だから2型糖尿病の場合も、筋肉や肝臓に脂肪が溜まっている。
そういう動物にアディポネクチンを注射すると、筋肉や肝臓の脂肪が燃える。
肥満があっても筋肉や肝臓に脂肪が溜まらない状態になって、インスリン抵抗性が改善するんだということが分かった。
脂肪細胞が頑張ってレプチンを出しても、抵抗性を上回るだけの分泌は起こらない。
そのため、マウスにレプチンを注射しても全然効かない。
つまり相対的分泌不全。
アディポネクチンは絶対的分泌不全なんだ。
アディポネクチンを正常な量、補充すると効く。
そのため、アディポネクチンは、レプチンほどの抵抗性はないだろうと考えられている。
アディポネクチンの作動機構や受容体を同定して、注射では投与しにくいので作動薬を開発しようということになるわけです。
<参考文献>
門脇孝(かどわき・たかし)@東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科 助教授】NetScience Interview Mail Vol.253 2003/10/30発行